本当のナンバ 常歩(なみあし)

本当のナンバ 常歩

陸上の末次選手の活躍で「ナンバ」という言葉がはやりだしたころに購入した一冊です。ただ、その「ナンバ」の解釈というのが正直なところ私には受け入れられないでいました。
というのは、身体運動学などを少しでも勉強されたことがある人ならお分かりになるのではないかと思いますが、多くの書籍に書かれている「ナンバ」をその書籍の解説だけで実際に再現しようとしたらそれは不自然極まりないものになるからです。それが本当に有益で、現代のスポーツ選手の合理的な「歩き方」に取って代わるものであるのなら、身体運動学的な観点からももっと優れているんだ、ということを明確にすべきだったと思います。現代ウォーキングの理論に伴うフォームから解釈すれば、人間の足になぜ縦横のアーチがあるのかという体の構造に納得することができます。しかし、「昔の人間は(きっと)やっていた(はず)」というレベルでの「ナンバ」理論からはそのような関連性は浮かび上がりません。実際、2カ月ほどは常に練習してみましたが、体調が崩れるのが先でした(笑)。

そこで目に留まったのが「本当のナンバ」と銘打ったこの本でした。果たして「ナンバ」という言葉自体が、「工夫のある歩き方」に適用されていいものか、という疑問はありますが、別に「常歩」(なみあし)という新しい名前で紹介されているところに、著者の自信をかいま見た気がし、また分解写真で木寺先生の分解写真を見て相当期待できるということで購入することにしたのでした。

まず、中心軸と二軸に関する記述は大変興味深く読みました。ただ、私自身はこれほど中心軸感覚と二軸感覚をきっぱり分ける手法には疑問が湧いたのも事実です。私が過去に練習した武術では、ここでいう中心軸という感覚も、二軸という感覚も動作の中で確実に感じ取られるものであり、常にシフトし合う感覚でした。
現代ウォーキングが一軸ということについては、確かに、感覚としては体の中心に縦に走る軸のほうが強く感じられます。しかし、実際の動作中に重心線を下ろしてみると確実にそれが左右にシフトしていることが見て取れると思います。ですから、きっぱり一軸といってしまっていいものかとも思うのです。ただ、著者の紹介する「常歩」は明らかにフォームが異なり、より軸の移動が明確ですから、「一軸」「二軸」と分類してしまったほうが分かりやすいと判断されたのかもしれません。
もちろん、これは「常歩」についての書籍ですから、どうしても従来のフォーム(中心軸感覚)に対する優位性の解説が多くなってしまいます。多分、真っ白な人は「なるほど。すごい」と受け入れられるのかもしれませんが、私などは逆の観点から「その歩き方で足のアーチの構造を活かせるのか」「なぜ私たちの足にアーチがあるのか」というような疑問を持っています(おっと、私の足にはアーチがほとんどなかったりして)。私たちの体は私たちの長年の行動様式にあわせて適応してきたのではないかと。それを変えることにメリットはあるのかと。赤ちゃんが二軸歩行なのはわかっても、大人とは体型も大きく異なるし、骨格もまるで別物です。赤ちゃんの骨盤は腸骨、座骨、恥骨が分かれているし、仙骨もまだ仙椎という形で独立しているはず。手根骨や足根骨も。大人と比べてバランス感覚が発達しておらず、転びやすい。これは子供にとって自然な身体操作でも、大人にとって自然なものなのか?
ただし、ウォーキングの本などで紹介されるちょっと大げさな腕の振り方、それに伴う上半身のねじり、踵の踏み出し方、極端な大股を紹介する不自然なフォームを見ていると、それがむしろ体に負担をかけるフォームであると紹介されても仕方がないのかも。

ここまで、理論的な面での疑問点ばかり上げてしまいましたが、よくよく考えたら指導者向きのウォーキング関連の専門の書籍や講習会から得た情報と、一般向けに書かれた読み物を比較するのはアンフェアなのではないかという気もします。
実は、この書籍に登場する小田先生が書かれた専門書『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』という書籍も所持しているのですが、この中では、「常歩」歩行に対し「通常」歩行ではエネルギーのロスが多い、という証拠となるようなデータも掲示されているのです。この書籍についても、いずれここで紹介させていただくことにしましょう。

また、頭では相当に疑問が残っている部分もあるのですが、感覚的には実は非常に共感できる部分が多くて、この書籍の記述が実際の自分の動きを確認するのに役立った面が多々あります。上記したの軸の移動、その軸を通る胴体部分が脱力して沈み込むような感覚、踵を踏んで拇指球側が「浮くような」感覚と押し出されるような前進、外足感覚など、「言葉ではこう表現するのか」と感心することしきりです。私にはまだまだわかっていないことも多いので、本当にそのことを指しているのか、一致しているのかわからない部分も相当にありますが、自分が過去に練習してきた武道をひもとく上で非常に重宝しています。
もう一つ、短距離選手の練習法とフォームの比較についての解説とデータはとても分かりやすく、とても参考になりました。

ちょっと長くなってしまいましたが、私がどれだけ興味を持ってこの本を読んだかが一目瞭然ですね。

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