ブルース・リーの生涯のエピソードを、ブルース・リー研究の第一人者であった日野康一氏がまとめた貴重な本です。
私が中学生の頃、鹿児島の書店で売っていなくて、なかなか購入できなかったことをおぼえています。
いざ、入手してみると、非常に中身が濃く、知りたかった「体に電気を流す」話(EMSです)などについても、兄弟子の黄淳梁氏のインタビューで語られていて、楽しめました。
しかし、少々残念な点があるのも事実です。この書籍が作られるに当たっては、中文雑誌や香港雑誌が参照されているようなのですが、実はこれらの情報源は昔のゴシップが元だったり、創作だったりと、信頼できる情報がきわめて少ないのです。兄弟子・黄淳梁氏のような実在の有名な人物が監修しているようなものなら信頼性も高いと思いますが、誰がライターなのかもわからない記事は、「これはお笑いなのか」と思ってしまうようなものもあります。
『栄光のドラゴン ブルース・リーのすべて』にも、そういった記事を参照したのであろうことがわかるものが散見されます。さらに、思いこみで書かれたものを、さも事実であるかのように述べているようなところは問題ですね。それは、「ブルース・リー脳腫瘍説」。脳腫瘍の周りから脳出血を起こして死んだ、と結論づけています。死の2ヶ月前の検査で脳腫瘍を指摘しなかったのは、本人に告知すべきではないという医師の判断だろうと推定しているわけです。しかし、ブルース・リーは死後解剖されていますが、脳腫瘍は見つかっていません。死後発見されたのは死の当日に発生したと思われる大脳水腫であり、これは脳腫瘍のような悪性腫瘍とは異なります。
これは著者が脳腫瘍と大脳水腫の区別をつけられなかったことによるものではないかと私は思います。
読み物としておもしろい本ですが、ゴシップに引きずられることなく、大人の目で見てほしい本ですね。