私がより筋肉をつけることを目的にサプリメントを摂取していたのは10年も前の話である。その後最近まで、積極的にサプリメントをとるようなことはあまりなかった。
実際、私の場合は飲んでも飲まなくても体の調子に影響はなく、運動のパフォーマンスが変化することもほとんどなかったからかもしれない。
それ以外に、人間の体の自然な姿という側面へのこだわりがあったことも否定できない。
以前、日本のオリンピック選手の栄養面の監修もしていらっしゃるという大学教授の講義を受けたことがあるが、その中で彼女は
「人間は、もともと含有量の少ない微量栄養素をなんとかして摂取した食事から集めようと頑張っている。それなのに、安易に外から補給することが習慣化してしまえば、そういった私たちが元来持っている機能を低下させることにつながる」
というような話をされていた。このことについては私自身も同じ考えである。実際最近まで、サプリメントを摂取していなくても以前摂取していたときと変わらない体調で、同じレベルの運動を行うことが可能だった。むしろ、いろいろとうまくなった分、以前より楽に体を使えるようになった部分もあったと思う。
それ以外に、コマーシャリズムに乗せられ、不要な製品をわざわざ摂取するのも嫌だった、ということもあるかもしれない。
ちょうどICOを始めたころ、個人でサプリメントをディストリビュートしているある人から、奇妙なメールを受け取ったことがあった。短い質問形式のメールで、まるで禅問答のようにこちらの反応を誘導しようとしている。実際には質問などではなく、自分では分かっていることを私に確認させるように答えを書かせようとしているものだ。
健康食品は、個人代理店が、その下の個人代理店や消費者に売って…、という販売形式をとるものが多数みられる。こういった販売形式についての是非について述べるのはここでは避けておくが、2回目くらいのメールで私はその目的が分かってきたし、くそ忙しいときに連続的にそんなメールをもらい続けることがだんだん不愉快になってきた。
そこで、当時の私にとっては、サプリメントは必要性を感じないことを書いた上で返信することにした。私は決してサプリメント否定論者ではなかったのだが、これ以上その人とやりとりをするのは不毛だと思ったので、やんわりと拒否したつもりだった。
しかし、その人の返事は「運動指導者ともあろう人がこんな状態なのだから、日本はダメなんだ」みたいな返事をしてきたのである。もちろんその人は気づいていないのだろうが、その会社のサプリメントを信じ切っていて、その内面からしか物事を見られない人、その商品を数多く売ることを生業としている人の一方的な意見には残念ながら説得力がないのである。
まず、それ以前に何回かのメールの内容が非常に失礼な形式だし、最後のメールも私がサプリメント否定論者だと完全に決めつけている。誰がそういう人を信頼して、サプリメントを購入しようと思うだろうか? でも、どう思われようとそれでつながりが切れてくれればOKなので、どんな風に思われていようとも私からは反論の返事を出すことはなかった。
そんなこんなで私にとってはこの10年ほどあまり必要とは感じられなかったサプリメント。しかし、何度か掲示板などにも書いたからご存じの方もいらっしゃると思われるが、ここ2年ほどは腰や股関節を痛めたり、風邪を引きやすくなったりという症状が現れ始めた。もう、30代も後半になっているので、体のさまざまな機能が衰えつつあるのは自然の摂理でしかたがないと思う(こういうと、「ほら。ぼくの言うとおりサプリメントをちゃんととっていれば、衰えを先延ばしできたんだ」という件のメールの人の勝ち誇った声が聞こえてきそうだが)。これらについては、トレーニングの方法を変えたり、スケジュールを変えたりすることでかなり改善できてきた。
反面、衰えを防ぐという観点から、特に最近は体作りへの意識が非常に高まっていて、昨年から今年にかけてはまとまった運動を行う時間が増え、1日に2.5時間〜3.5時間ほど行うようになってきている。私自身は適正な量だと思っているが、ときどき疲れがたまっていることを実感する場合もある。
ここで、改めてサプリメンテーションについて考えるようになった。
以前はかなり多くの量の食事をとることによって、摂取する微量栄養素の絶対量も多かったと考えられる。私の体はおそらく内部的に頑張って、食事から必要な微量栄養素を抜き出すことにも成功していたのだろう。
しかし、30代の後半になり、代謝機能も少しずつ低下していることが考えられる。さほど変わらない運動量をこなしているとはいえ、以前と同じ食事のとりかたをしていては、体脂肪が過剰に増える原因になってしまうだろう。そこで食事量は若干減らしているわけだが、当然微量栄養素の絶対量も低下しているはずである。加齢に伴い、私の体が食物から微量栄養素を得る機能も併せて低下していないとは限らない。
それに対して、運動量は少しずつだが増加して、サプリメントをとっていたころ、つまり10年前の水準にかなり近づいてきている状況である。
このようなことを考え合わせていくと、すでに私の微量栄養素の摂取量は潜在的に負の状態に陥っているのかもしれない。
ここで、先ほどの大学教授の話だが、彼女は決してサプリメントを否定していたわけではない。ブームに乗って、必要な知識なしにむやみに飲むことによる問題点を指摘していたのだ。
「食事の内容を調べれば、傾向的に何が不足しているのかが分かる。その不足している分をサプリメントで補うのであればそれは有効な手段だといえる。飲んでいれば安心とマルチビタミンを安易に飲んだり、何かに効果があるからとあるビタミンをむやみにとりすぎることで過剰症を起こすこともある。」とその教授はいう。
不足している分を補い、必要十分を満たす。これは確かに、サプリメンテーションの正しい扱い方だと思う。足りないことは問題だが、脂溶性ビタミンやミネラルなどを過剰にとりすぎるのも肝臓への蓄積などを招き、危険だ。また、あまり影響がないとされる水溶性ビタミンなどでも、過剰な分は体外に排出しなければならない。そういった行為は、体の中でのよけいなコストを高めるだけである。やはり、多少の試行錯誤は必要だが、自分にとって必要な量を見極めて、適切な量をとることが大切なのである。
とりあえず、微量栄養素の話はよしとして、いたずら心からそういった微量栄養素のサプリメントを摂取する前に、いくつかのスポーツ選手向けサプリメントを久々にためしてみた。
まず、クエン酸ドリンク。私の場合は効果は感じられず、それよりも胃などの不快感が強くなってしまってやめてしまった。
その後、まとまった運動を始める前、間、後などにBCAA(必須アミノ酸のバリン、ロイシン、イソロイシン)、アルギニン、グルタミンを含んだサプリメントをとるようにしてみた。10年前は海外製の製品しかなく、そのときは飲んでも飲まなくても有意な変化を感じることはなかった。しかし、現在は日本製のサプリメントも販売されるようになっていて、各種メーカーがその質を競っている状況である。私はかんで食べられるチュアブルタイプを選択したが、今回も残念ながら効果が出ている、という実感はなかった。現在、ボディビルダーの小田さんのサプルメントについて特集記事で掲載しているけれども、あれぐらいハードに筋肉を消耗するような運動をすれば、大きな差を感じるのだろうと思う。
最近は、自重でのエクササイズから張力の強いチューブでの負荷を段階的に強くかけるようになってきているので、ホエイプロテインパウダーも併用してみた。
プロテインは、10年前に使っていたサプリメントの中で、一番実感が大きかったサプリメントかもしれない。食事のエネルギーの一部をプロテインに置き換えるようにすれば、脂肪の摂取を抑えた上で良質のタンパク質を手に入れられる。1日のエネルギーにプラスする形なら、筋肉の量を増やしながらの増量に役立つ可能性が高い。
実際、今回もプロテインを飲みはじめてからのほうが筋線維の太さの変化が大きいような気がするのだが。プロテインパウダーにはビタミン、ミネラルなどの微量栄養素も含まれているので、それらの不足が多少解消された部分もあるのかもしれない。
しかし、そろそろ微量栄養素をもっと意識したサプリメンテーションを考えたい。
そこで、サプリメントを専門に扱うショップをいろいろと調べてみることにした。
私がよく運動用具を購入するショップは、プロテインやアミノ酸以外に、ビタミン・ミネラルのサプリメントの種類も充実している。店員も格闘技の選手だったりするので、かなりの知識を持っていると思われる。ただ、運動を専門に勉強し、その観点からサプリメントを研究している、という面では私も同じ。逆に、栄養を専門にしていて、運動などの方面も研究している人、つまり栄養士をスタッフとしているショップがあると、私とは異なる観点からアドバイスをもらえる可能性があるのではないかと考えた。
そんな中、見つけたのが”HEALTHY-ONE”というサプリメントショップだ。ショップには栄養士がいて、顧客に対するアドバイスを行いながらサプリメントを選定することができる。なにより、「マイビタミン」というシステムがよいと思った。「不足している分を上手に補う」という意味で、必要なものだけを必要と思われる量組み合わせることができるのだ。
私はこのショップにいって、どのような商品が置いてあるのかを調べた。残念ながら、プロテインとかアミノ酸などのラインナップは少ない。マルチビタミン・ミネラルとか、目的別のマルチパックなどはかなり充実している。
そのうち、栄養士の資格を持つ男性店員が出てきたので、いろいろと相談を持ちかけてみた。
まず、プロテインとアミノ酸タブレットだが、両方ともちょうど底をつきかけていたので、数少ないラインナップから購入することにした。
次に、ビタミン・ミネラルだ。栄養士さんは、やはり現状の目的からすると、マイビタミンがおすすめだという。そこで、抗酸化ビタミンとビタミンB群が充実した組み合わせを設定し、適度なミネラルを含んだマルチミネラルをそれに加えた。
これらを1日分ずつパッケージングするので、できあがるまで少し時間がかかる。
これらのサプリメンテーションについては、後日ショップから封書で詳しい解説が届く。
かなり丁寧な手書きによるフォローアップの手紙が同封され、作成したサプリメンテーションの内容についても微量栄養素の含有量などが改めて記されている。必要性の低い栄養素は少なめに、そうでない栄養素については多めに配分されていて、やはり既製のセットを購入するより無駄が少なく、また満足感もあると思う。
もちろん、サプリメントに詳しい知識を持っている人であれば、自分でいろいろな商品をすべて選んで組み合わせることも可能だろうが、初心者の人にはこのようなフォローのあるショップを利用するのは価値があるかもしれない。ただし、価格設定が高いので、それだけのお金を出す価値があるかどうかのトレードオフが難しいのだろうが。
私の場合は、各種ビタミンを個別で購入するより、ショップで組み合わせてもらったほうが楽なので、ちょっとしばらくはマイビタミンを利用するかもしれない。次回は、これらに加えてみたいものもあるし。
私にとって、ビタミン・ミネラルのサプリメントが「効いたな」と感じたのは、ラウンジのコラムにも書いたけど、絶食に近い減量をし、その後も低体重を何ヶ月も続けていたときだけだ。このときは本当にケガが治りにくかったのだが、友人が買ってきた海外製のおみやげのマルチビタミン・ミネラルを数日飲んだだけで、あっという間に傷が治ったのだった。
そして今回。久々にビタミン・ミネラルに実感を感じた。飲み始めて数日で疲れが軽減し、パフォーマンスも良くなったのだ。予想通り、最近は潜在的な微量栄養素の不足が現れ始めていたのだと思う。今の運動量を継続するなら、現在の私にとってはサプリメンテーションは必須のようだ。
ただ、ちょっと妥協して購入したアミノ酸タブレットとプロテインは失敗だったかも。効果があることは大切かもしれないが、毎日続けるためには味も重要なのだ。マイビタミンはこのショップを利用し続けるにしても、アミノ酸・プロテインはスポーツショップのほうが充実しているため、現在は使い分けが必要になりそうだ。