私は今でも武道・武術と筋力トレーニングの連携についてかなりのこだわりを持っていますが、最近はいくつかの書籍を見つけることができるものの、私がフィットネスインストラクターになったばかりのころは、そういった資料はあまり存在しませんでした。ある武道団体が行っているバーベル・ダンベルを使った書籍というものはあったと思いますが、筋力トレーニングの専門家側からアプローチした書籍はそう多くなかったはずです。
この書籍は、大阪から戻ってきて、東京の新しいスポーツクラブに所属する直前の1991年5月ごろに購入しました。武道と筋トレを結びつけた直接的なアプローチが新鮮で、一も二もなく手にとってレジに向かっていました。
内容を見ると、筋力トレーニングの第一人者から提案されたものであるため、筋力トレーニングに関する記述は非常に充実していて、さすが、と思わせるものがあります。ただ、武道への筋力トレーニングの適用というアプローチの導入部分については、多くの部分で疑問を持ったものです。
昔から武術においては西洋的なトレーニング法の採用に反対する人が少なからずいます。著者は筋力トレーニングの専門家としてこの書籍の中でその意見を論破しています。
ですが、その意見についての私の正直な感想として、筋力トレーニングのセオリーを、筋力トレーニングを採用しない団体に押しつけるのはかなり強引な話です。実際、私はそういった団体に所属してその上達論や術技を経験しない限り、それは理解できないと思います。これからの筋力トレーニングの世界では、そのような柔軟性が必要だ、と率直に感じました。
よくよく読んでみると、この書籍で述べている「武道」なるものの土俵が、実は武道そのものではなく、武道スポーツである、ということに気づけば、なるほどとうなずけます。ただ、「武道」というタイトルを付けて、武道全般を意味するような書籍であることを考えれば、必ずしも著者の意見は的を射てはいません。
ただ、筋肉のポテンシャルと筋肉のコントロールの分離が盛んにいわれるようになったのは比較的最近であることを考えれば、著者の理論は当時としては至極当たり前の、スタンダードなものだったと思います。
筋力トレーニングを武道に適用するさいには、「その筋肉がどの部分を」「どのように使っているか」という観点から、種目や方法を選び出すことが多いと思います。この書籍でもそのセオリーに乗っ取って、いくつかの武道スポーツのためのプログラムを後半部分で紹介しています。ピアリオダイゼーションの計画などについては、各武道スポーツ共通の方法として紹介されていて、特にどの武道がこんなスケジュールで、というものはありませんでした。
とにかく筋力トレーニング部分の記述は非常に充実していますから、資料的価値はとても高いと思います。
そういえば、以前著者の窪田先生が、全身の筋肉を自由自在にコントロールするデモンストレーションを見たことがあります。ぐっと力を入れたり抜いたりするというものではなく、ものすごいスピードで扱う筋肉を移動させていました。あれは本当にすごかったですね。