私の高校時代、空手道部は毎年全国大会に出場するような強豪の一つだったので、部活の練習だけでは足りずに夜は師範の道場に通うこともしばしばでした。その道場には、東恩納寛量先生、宮城長順先生、比嘉世幸先生の大きな写真が飾ってありました。
師範の話では、東恩納先生が剛柔流流祖、宮城先生が剛柔流開祖、比嘉先生が範士ということでした。また、東恩納先生は中国に渡りリュウリュウコウという先生に習ったとのことで、宮城先生も中国で修業したことがあるとのことです。
それまでにも空手関係の書籍を読み、空手とは沖縄にもともと存在したとされる「手」が中国武術の影響を受けて発展したものだ、という認識はありました。剛柔流空手の成立に中国武術が深く関わっているとなれば、当然その中国武術にも興味がわいてきます。後に私が詠春拳という中国武術の一つを習うことにしたのは、ブルース・リーが最初に習った拳法だから、という理由もありますが、大学時代に見た詠春拳の術技の写真が剛柔流空手に似ていた、ということもあります。実際習ってみると両者は全く別物でしたが、戦い方についてはちょっと似ている部分もありましたね。というか、詠春拳をやってみたことで逆にわかったこともたくさんあったと思います。
その後、中国の書店で購入した『福建鶴拳秘要』という本があり、これは剛柔流空手に酷似していました。サンチンやセーサンの型で両手を前に出して構える姿勢に近い分解写真が紹介されています。三戦立ちの足の角度、少し低い拳の位置など、違いはありますが、「これが剛柔流空手道の源流なのでは?」と思ってしまいました(実際、そううたっている団体もあります)。
そして、この白鶴拳。私が習った香港の葉問系詠春拳にはない動きがたくさん含まれます。特に、葉問系詠春拳には両足を前後に開く子午馬、左右に開く二字箝羊馬、側身馬はあるのですが、相手に対して前後左右に開く、空手の三戦立ちのような立ち方がありません(実際の動きの中では似た形になるかもしれませんけど)。
この白鶴拳にも不丁不八歩という空手の三戦立ちに似た立ち方が紹介されています。数々の基本動作がこの立ち方で行われているところをみると、白鶴拳の代表的な立ち方なのでしょう。しかし、空手では両足を踏ん張りますし、上述の『福建鶴拳秘要』の姿勢もそのように見えます。それに対しては白鶴拳の立ち方は柔らかく立っている感じでその点では葉問系詠春拳とも似ています。ただ、腰をまっすぐ落とすか、前に出すかという点では、『福建鶴拳秘要』の横から見た姿勢と葉問系詠春拳の横から見た姿勢、および剛柔流空手道の三戦立ちは似ている感じがしますね。また、白鶴拳の型の分解は葉問系詠春拳の技とかなり似ているように感じます。逆に推手に関しては私が習った剛柔流空手道のカキエという練習法にそっくりです。また白鶴拳の套路(型)には私が剛柔流空手で習った型にかなり似た姿勢もありますね。
また、興味深かったのは、福建鶴拳でも、この書籍で紹介される白鶴拳でも、引き手を脇の下にとるような技術が一つも紹介されていないことです。詠春拳や剛柔流空手道の場合は型はもちろん、引き手を脇の下において行う練習は多いです。剛柔流空手道の場合は対人での分解練習もそう。ほかの中国武術の対人技術紹介でも、腰に引き手をとっていることが多くて、格闘技術の適用方法としては疑問を感じることが多いです。
それに対しこの書籍では、対練は基礎的なものしか紹介されていませんが、見る限り非常に実用に持って行きやすいものだと思います。急に危機的な状態になったとき、すぐにとれる姿勢での攻防だからです。
健康のために? 改めて何らかの武道を習いはじめようなどと考えているのですが、なんか習いたいことがいっぱいあって収集がつかなくなってきた…。結局なにも始められないいいわけになってしまってはいけませんね。