ここ数年、古武術がブームになっていて、書店のスポーツコーナーの一角を占める存在になってきています。
この種の書籍のかなりに目を通していますが、感じるのは自分にしか理解できないような難しい言葉を並べ立てたり、曖昧な表現をして煙に巻いているものが多いな、というのが正直な感想になります。広い見識とデータに基づいた、スポーツ科学の本のように直接役立てられるものではない、ということですね。
この書籍については、その表現を非常に平易にしているし、体の使い方に関する表現もより現実的であるのが特長だと思います。
たとえば、ブルース・リーがアメリカで行っていた、ワンインチ・パンチという超ショートパンチで相手を吹き飛ばす技術についてですが、「丹田にためた気を爆発させて、威力を出す」という表現ではなく、「重心をどう使い、各関節をどのように使って打つ」というような、一般のスポーツの技術解説と同じような説明をしてくれているのです。
おそらく、前者の方法では一般の人は誰もブルース・リーのワンインチ・パンチに似た技を実現できないでしょう。しかし、この著者が紹介するコツを再現できれば、それなりにショートパンチで人を突き飛ばすことができると思います。もちろん、ブルース・リーの場合は書籍で紹介される技術以外の要素を明らかに使っているので、全く同じ結果にはなりませんけど。
ちょっと気になったのは、現在の古武術ブームとそのシンボルともなっていた「ナンバ」という言葉について再考証する場面で、そのブームのきっかけとなった武術家をおとしめるような形で批判したりしている部分です。反証そのものは的を射ていていいと思いますが、その表現には注意を払ったほうがいいのではないかと感じました。
最後に、私個人の感想として、後半の芸能界の武術の達人特集? はおもしろかったですね。