新説!!芦原英幸―いま明かされる天才空手家の技と心

新説 芦原英幸

これまで私が一緒に仕事をしてきた人や友人には、なぜか空手団体の「芦原会館」に所属していた、という人が多かったような気がします。空手団体はほかにもあって、もっと大きな団体もあるというのに。少なくとも、私の知っている人たちは「最強」「排他的態度」を超えて、他人をたててくれる人が多かったこともあってか、その中の何人かは今でも交友が続いています。
その芦原会館の創始者が、この書籍で紹介される天才空手家、芦原英幸先生です。私の知り合いの人たちは、例外なく先生の技術について「次元の違い」を強調していました。

先生のお名前を知ったのは、おそらく中学時代に読んだ劇画「空手バカ一代」を読んだときだったと思います。当初脇役だった芦原先生は、その後完全に主役扱いとなっていきます。その内容はフィクション色が強いことは子供心にわかっていたのですが、芦原先生に関しては妙に実在感があったんですね。

その後、私は高校で空手道部に所属しましたが、もともと身体能力が低かった私はかなり苦労をしました。同時に、どうしたら運動能力を高められるのか、強くなれるのかということに人一倍の興味を持っていたと思います。
そんな中見つけたのが、芦原先生の著書、「実戦! 芦原空手」でした。この書籍はとてもインパクトの強い書籍で、今まで見た技術書とは一線を画していたのです。
当時の私はすばらしい角度で繰り出すハイキックに惹かれました。実は私も蹴りが得意で、書籍のモデルとなっている人たちと変わらない高さのハイキックを連発することができたのですが、彼らの蹴り方は明らかに私の蹴り方とは違いました。その蹴り方について、非常に詳細なコツが示されていたのです。

本当に影響を受けたのですが、反面、街頭で襲いかかる暴漢が突然ハイキックを放つようなシチュエーションが多く設定されていて、正直疑問に思ったりもしたものです。少なくとも私が住んでいた鹿児島ではそんなことはあり得なかった(笑)。しかし、今思えばそんなことより、芦原先生が紹介されたサバキの先進性にもっと速く着目しておけば良かったと、切に思います。少しでも理解が進んでいたら、ポイント制の空手の大会でもそれは応用できたのではないかと思うのです。

今回紹介する「新説!!芦原英幸―いま明かされる天才空手家の技と心」には、その芦原先生が指導する貴重な映像を収録したDVDが付属します。これは本当に興味深い映像でした。私の知り合いの一人が、「先生のパンチは見えないほど。正面からではなく、横から見ても信じられない速さだった。少なくとも今まで見たパンチの中では一番速い」と言っていましたが、映像に収録された先生の逆突き(リアパンチ)は確かに速くてパワフルです。
私は、ブルース・リーがアメリカの空手(テコンドー?)の大会で見せたパンチのデモンストレーションビデオを持っていることもあり、その速さについては友人の感想とは異なります。
ブルースの場合はリードパンチ、芦原先生の映像はリアパンチという違いもあるので、比較にはならないかもしれませんが、前者はほかの部分があまり動かず、いきなり拳が飛び出す感じでその軌道は横から見る限りは一直線です。後者は頭や肩を振って、上から思い切りたたき込む感じの印象があります。パンチの打ち方にも、武道家によってそれぞれの特色があるのだと実感しました。

しかし、お弟子さんの前で指導する姿を拝見すると、友人たちが口を揃えて言っていた「次元が違う」というのが際だちますね。先生がちょっと動くとお弟子さんは簡単に体勢を崩してしまう。単に投げたり引っかけたりするというだけでなく、軽く当たったキックなどで簡単にダメージを受けてしまうような様子が見られる映像もあります。
実は、このDVD以前にも先生が発売したビデオテープがあり、そのうち2本を所持しています。そのときの先生の安定した技のデモンストレーション、本当に小さい動きで相手を制するその姿に驚嘆していました。今回のDVDは、8mmフィルムからビデオに写し取ったものらしく、映像は非常に良くないのですが、道場での実際の指導風景が見られたのは大きかったです。まさしく、達人です。

先生は1995年に亡くなられましたが、今では長男の英典先生がその遺志を継いでいらっしゃいます。お弟子さんや友人、先輩の方々のインタビューが掲載されて居ますので、基本的には芦原先生の人となりを紹介する書籍だと思うのですが、DVDにはお弟子さんたちの技術も紹介され、書籍には分解写真での紹介も行われています。
私にとってはとても満足度の高い書籍でした。

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