技アリの身体になる

 数年前から、古武術における身体操作への興味が高まっているようです。
 その一翼を担ってこられたのが、甲野善紀師範だと思います。師範の著作、関連本などには古武術的な身体操作の方法とその特長が紹介され、現代体育と対比させてみたり、試してみたりすることは私にとっての日課のようなものにもなっています。
 しかし、正直な感想を述べさせていただくと、それらの書籍の記述は私を含めた一般人には表現が非常に曖昧な感じがします。たとえば、「ねじらず、うねらず」「井桁崩し」「体を割る」「膝を抜く」と言われて、パッとイメージがわくでしょうか? このような表現では、概念的なことはつかめても、そこから具体的なイメージや練習法を導き出して実践できる人はほんの一握りだと思います。
 ここでおすすめなのが、この書籍です。甲野師範の弟子である中島章夫氏が稽古会のために作成したテキストなどをもとに、甲野師範の書籍の何冊かの本の著者、田中聡氏がまとめたものですが、基本的な予備体操から一人稽古の方法まで、平易なイラスト入りで紹介されています。
 武術を解説する書籍だと、通常は「相手がこう突いてきたら、こうよけて、こう返す」みたいな分解写真を掲載しているのが常ですが、それを武術として活かすためには、どういうからだの使い方をしてそれを実現しているか、ということが大切です。そうでなければ、そのような動きはとうてい不可能ですから。私たちが自然に得てきた体の操作法では、自分を全力で倒そうとする相手に対して、分解写真のような動きでそれをさばけるとは、とても考えられません。
 この書籍ではそういった分解写真に至る前の、もっと基礎の「体の使い方」を段階的に錬っていける一つのカリキュラムが提案されています。すべての種目がこの書籍だけで理解できるとはいいませんが、練習によっては書籍で意図された感覚を味わうことも可能だと思います。
 また、そういった感覚は本来試行錯誤しながら理解していくものですから、段階によっても感覚は変わるでしょうし、またその過程=進歩を楽しんでいくこともできると思います。

 あとは、私の経験からの注意点を。新しい運動法を試すときは、できる限り本に書いてある説明・図解を再現できるようにすることです。私の場合、仕事柄いろんな動きをいろんな形に試してみることで、調子がよくなるどころか逆に悪くなる、という体験もたくさんしています。やっていて極端に不快な感じ、たとえば頭痛や吐き気がしてくるような場合はどこか間違っているはず。そのような場合はその種目の採用をやめるか、解説本を見直して、何が間違っているかを確認する必要があるでしょう。一番よいのは、実際に指導されている練習場を訪ねてみることですが。