英雄ドラゴン~ドキュメンタリー・オブ・ブルース・リー&倉田保昭

英雄ドラゴン~ドキュメンタリー・オブ・ブルース・リー&倉田保昭~ [DVD]
英雄ドラゴン~ドキュメンタリー・オブ・ブルース・リー&倉田保昭
2005年に発売されたこのDVD。ずっとほしいと思っていたのですが、当初はAmazonなどでも売られておらず、なかなか入手に至りませんでした。

私が「ブルース・リー道(?)」に入るきっかけを作って下さったのは倉田保昭先生です。その倉田先生がブルース・リーについて語っているという私にとっては必見のDVDですので、今回ようやく入手できたことを喜んでいます。

以下、このDVDの内容について評価していますので、見る前にあまり詳しい情報を知りたくない、という人はここから先は読まないで下さいね。

個人的には、1964年ロングビーチ・トーナメントでのブルース・リーのデモンストレーション映像が収められていることがうれしかったですね。youtubeなどではすでにおなじみの映像なんですけど、このDVDでは倉田先生の解説がついています。

私たちはこの映像がいつ撮影されたものであるかなどを知っているのですが、倉田先生にはその予備知識がないようで、あくまで門外漢としての目で解説されているのが興味深いですね。倉田先生は空手五段、柔道三段、合気道二段の腕前ですが、ご自身が習得された武道の知識からこのデモンストレーション映像を分析しています。このため、詠春拳の黐手を「合気道の技術」のとして見ておられたりするのですが、その技術的な内容については一般の人向けの大まかな分析としては問題ないと思います。

また、ブルース・リーが生前にインストラクターとして認定した3人のうち、ご存命のダニー・イノサント先生、ターキー木村先生のインタビューで、ブルース・リーがかなり「厳しい」先生であったことを述べておられました。このお二人も含め、他のインタビューではあまり出てこなかった表現なので、「おぉ。やはりブルース・リー先生も武道の先生してたんだな!」と妙に納得しました。

不思議に思うのは、倉田先生を含め、ブルース・リーに実際にあったことのある日本人俳優が「ブルースは小柄で、身長は167cmくらいかな」みたいなことをおっしゃっているのです。このDVDでもそうですね。ただ、今手元の資料が見つからないですが、過去に見た検視結果に記載されたデータは172cmだったと記憶しています。亡くなって身長が伸びたのでしょうか? まあ、椎間板がゆるんで1cm程度は変わると思いますが。

それに、こちらも資料が見つからないのですが、「ドラゴン危機一発」で共演した女優のマリア・イーさんの手記が日本の映画雑誌に載ったことがあります。それによると彼女の身長は169cmで、ブルース・リーが彼女のパンツ(ジーンズだったかスラックスだったか)をはいたらぴったりだったというエピソードを明かしています。映画で見る限りは、同じ薄い布靴を履いた状態でややブルース・リーのほうが身長が高いので、170cm以上はあったのではないかと私は推測しています。

ブルース・リーは今でいう典型的な「細マッチョ」です。服を着たらかなり貧相に見える可能性がありますね。「燃えよドラゴン」でブルース・リーの生徒役を演じていたトン・ワイ氏も、「こんなにやせちゃってて大丈夫なの?」と最初は甘く見たようなことをインタビューで述べています。しかし、彼の実際の動きとストレッチングを見て、その驚異的な身体能力に気づいたそうなのです。その上で、猫背と若干のO脚。そんなわけで実際の姿より小さく見えるタイプの人だったのではないでしょうかね。

ブルース・リーはハイヒールを愛用していたみたいですが、気持ちは分かります。だって、共演のマリア・イーさんと何度も写真に収まらなければならないのですが、ほぼ同身長のマリアさんがハイヒールを履いたら、ブルース・リーはかなり小さく見えてしまうでしょう。ブルース・リーもハイヒールを履かざるを得なかったんじゃないかな?

さて、倉田先生はブルース・リーの主演映画に対する分析もされていますが、「ドラゴン危機一発」については、ブルース・リーの映画の中ではアクションが「たいしたことがない」という表現をされていました。これは、アクション監督がリー本人ではなかったことをひとつの理由にしておられますが、もちろん背中の深刻な怪我(医師からは武術の再開はムリだと言われていました)から回復した直後の撮影であったことを忘れてはなりません。回復といっても、神経の損傷ですからその痛みは常にあり、アスピリンの服用は欠かせなかったと聞いています。

ただ、アクションとしては倉田先生がいうように「荒い」のかもしれませんが、私の見方は少々異なります。ブルース・リーは力の出し方が非常に洗練されているように見えるのです。体の中心にためた力を一気に外側に向けて解放するのですが、筋肉の弾性要素や腱の反発をうまく使っているような気がします。予備動作をほとんど使わずにそれをやるのが驚きではありました。

また、ひとつの技に参加する関節や筋群が明らかに多いのも、あの特徴がある動きにつながっているのだと思います。当時の他の俳優さんが動作エンジンの「筋肉」をおおざっぱに使って技を使うのに対し、ブルース・リーはもっと筋肉を細かい単位で使っているようにも見えます。例えば、これは見せ方の影響もあると思うのですが、当時の他の俳優さんが連続技を行うために、膝〜股関節のコントロールを主体にして蹴っているのに対し、ブルース・リーは股関節とか、胸や腹のあたりから力を出しているような動きで、それに末端の筋肉をうまく連動させているように感じられます。

股関節より上の、胸とか脇腹の反発を使った蹴りについては、1980年代にすでに佐山聡先生が蹴り方のテクニックとして具体的なやりかたを紹介していて、今考えればすごいなあ、と思います。もしかしたら、先生が習われた目白ジムでもそういう指導が行われていたのかもしれません。

このDVDでは倉田先生とブルース・リャンのアクション・シーンのハイライトも収録されているのですが、これはこれで非常に激しくて、蹴り技のコンビネーションのスピードはブルース・リーを上回るほどです。こんなアクションは今ではお目にかかれないほどのすばらしい完成度だと思います。もちろん、分かる人が観察するとそういう動きができるような蹴り方を選んでいることも分かると思います。それでもブルース・リーのような「猫のようなしなやかさ」は感じられません。

今までもいろんなアクション俳優の動きを映画で見ましたけど、今のところブルース・リーのような動きを実現している人は見たことがありません。むしろ、バレリーナとか、ダンサーに多く見られるような気がしますね。あらゆる関節が絶妙のタイミングで複雑に動作しますから(あ、そういえばブルース・リーも香港のダンス・チャンピオンだったんだ…)。

ブルース・リーと直接会ったことをセルフ・プロモーションのように利用する人もいます。写真やフィルムが現存せず、実際に会ったことがあるのかどうかも怪しい場合がありますが、中にはブルース・リーに対する自身の優位性を強調したりする人もいます。テレビのインタビューで、「ブルース・リーと向かい合ったけど、ムキになっててカワイイ。本気で蹴ってやろうかと思った」と言った人がいたり(まあ、それで勝てればいいんですけどね(笑))、古い空手の教本で剛柔流の先生が「私がブルース・リーにヌンチャクを教えた」と自己紹介したり、小説家が「私はブルース・リーを3分で倒した」とか(笑)書いていたり(それも小説ですか?)、みんなブルース・リーを利用していたんですね。

倉田先生の場合は、複数の場所でとられた一緒の写真が何枚も現存しますし、一緒の映画フィルムに映ったこともあります。その上での話で、尊大な態度がみじんも見られません。このDVDでも、ブルース・リーは非常に優れていて、全世界に影響を与えた偉大な人であり、倉田先生のようなアクション俳優の恩人であるようなコメントをされています。こういうところに、倉田先生の謙虚さ男気、武道家としての誇りを感じますね。

ぜひ、今後も倉田先生には現役で頑張っていただき、倉田先生の元で修行をされている門下生の方がスクリーンで活躍されることを祈るばかりです。